本学の長谷川武次郎コレクションには、弘文社やロンドンのグリフィス・フェアラン社より刊行された「日本昔噺文庫」シリーズのほかに、長谷川武次郎個人が出版人となって、我が国の代表的な昔噺を収めたものです。またアイヌ民話や1896(明治29)年に印刷されたカレンダー・シリーズなども収められています。 長谷川武次郎(1853-1936)は、江戸の商家に生まれました。生家は明治初期に食品の輸入から、英語の教科書まで幅広く商いをしていました。住んでいた京橋と外国人居留地の築地とは隣接していたため、幼いころより外国人に接する機会にめぐまれました。特に、日本語に堪能で日本昔噺に関心のあった米国人のディヴィット・タムソン牧師と出会い、ちりめん本の「日本昔噺」の執筆者となるヘボン博士、チェンバレン、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)らと交友を深めることになります。 長谷川武次郎は、1875(明治8)年に東京商法講習所で近代商業を学び、若い頃より親しんでいた英語とそれまで培った人脈によって、英語の学習用テキストとして、普通の和紙に木版印刷した本(平紙本)を弘文社から出版します。その後、輸出商品用としてちりめん本という、大変美しい本を完成させました。本の美しさのみでなく、居留外国人によって、日本の昔噺や当時の風俗が翻訳されている点においても大変興味深い文庫となっています。 ちりめん本「日本昔噺文庫」(Japanese Fairy Tale Series)は、1885(明治18)年に長谷川武次郎が主幹していた弘文社から刊行されました。当時の我が国を訪れた外国人観光客の土産物として好評であり、英語以外にも、仏・独・西・葡語などの各国語版が出版されました。その後、ちりめん本「日本昔噺」シリーズは、長谷川武次郎より版権を得て、横浜のケリー&ウォルシュ社から17冊、3ドル50セントで販売されました。 ・参考文献:鳥越 信,2001.はじめて学ぶ絵本史T(ミネルヴァ書房),35-45. |